「奥州曙光」

「奥州曙光」
【壁紙】第85回全国花火競技大会 大会提供花火

2010年8月16日月曜日

#81 冥土喫茶








サギソウ







 まだ乗ったことがないのでよくわからないが、昔から日本には、こちらとあちらを行き来する乗り物があるようだ。お盆の期間中、あなたの家でもつくったかと思うが、割り箸などで足をあつらえて、キュウリは馬になり、ナスは牛になる。完全な省エネ、エコである。この乗り物の製作はもっぱら男の仕事だが、何しろ一年に一回しかないのでなかなかうまくいかない。それでも何とか今年も、あちらから戻ってくる足の速い馬には少し長めの足を、あちらに帰るときに乗る牛にはゆっくり歩く短めの足を作った。

 13日の夕刻、玄関先で割り箸を数本燃やした。こうやって迎え火で迎えた祖先と一緒にお盆を過ごす。時には庭先で花火をしたり、境内で盆踊りを楽しむのである。西馬音内の盆踊りで亡者に扮して踊るのは、道理にかなっている。しかし今は、祖先の霊を慰めるための伝統行事が、生きている人たちの遊興になってしまっている気がする。今日16日は送り火。短い滞在を終えて祖先があちらに帰る日である。あなたの家では、牛に乗せて持ち帰っていただくお供物はどうされましたか。

 ある日の仕事帰り、友だち2人と「喫茶店で珈琲でも飲もうか」ということになった。ボックス席について間もなく、お冷を4つ持ってきた。アレッと思いながら、みんなでアイス珈琲を頼んだ。やがてアイス珈琲が運ばれてきた。なぜか、空いている席の前にもアイス珈琲があり全部で4つ。もしかして先ほど通った墓地から、誰かがついて来たのか? それからというもの、そのカフェは誰が言うともなく、少し以前に流行った「メイド喫茶」をもじって、「冥土喫茶」と呼ばれたのは言うまでもない。

 言っておくが、私にはこのように背筋が凍るような経験はない。しかし、日本には、お盆期間にわざわざお迎えし、お土産まで持たせてお見送りする習慣がある。祖先との絆を尊び、後世にまで伝えようという伝統行事である。それにしても、最近は誰に看取られるのでもなく、人知れず、あちらに旅立つ人も多いと聞く。迎え火を焚いてくれる人もなく、戻る家もない霊魂が彷徨う季節である。暑い夏、お互いに十分に気をつけながらクールな話で涼みましょう。

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