「奥州曙光」

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【壁紙】第85回全国花火競技大会 大会提供花火

2010年7月5日月曜日

#56 駒野は前を向いて帰ってきた! 
















 平成22年6月29日、南アフリカ・プレトリアのロフタス・バースフェルド競技場。この日を駒野は生涯忘れることはできないだろう。前・後半が終わって0:0、そして延長戦も0:0、PK戦となった日本とパラグアイの試合。日本の3人目、駒野のシュートはクロスバーを直撃して、上方に大きく弾んだ。その瞬間に、頭の中が真っ白になった。日本のみんなに悔しい思いをさせてしまった責任は自分にある。日本に帰ることができないと、天を仰ぎ頭を抱えた。うつむいて仲間のところへ戻る駒野を、中沢が抱きかかえるように迎え、列の中へ招き入れた。その後、日本の敗けが決まった。

 パラグアイ5人目がゴールを決めた直後、大喜びするチームの輪を抜け出し、一人のパラグアイ選手が駒野に駆け寄った。パラグアイ4人目のキッカーとして、PKを決めたアエドバルデスである。そして、額をすりつけるようにして何かを語りかけた。おそらくスペイン語だったのだろう。駒野は何を言われているのか分からないはずだが、しきりにうなづいていた。同じスポーツマンとしての気持ちが、言葉の壁を越え国境を越えた。

 自国の勝利に歓喜する中で、相手国の最も落ち込んでいる選手に駆け寄らずにはいられなかったアエドバルデス。言葉が通じないことさえも忘れ、駒野に額をすりつけながら、頬を両手で包み込んで語りかけたアエドバルデス。さすがは世界レベル。気持ちはあっても、行動できる選手はなかなかいない。それだけに、彼の勇気と人間性の高さに感動したし、もう一つのドラマを見せてもらった。感謝である。
 
 勝利の瞬間を迎えたとき、真の勝者は何を思いどう行動するか。最後まで死闘を繰り広げた相手チームの涙に、どうやって賞賛のエールを送るか。その時に一番幸福な人間こそ、一番不幸な人間を慰め讃え励ます姿を、パラグアイ選手が見せてくれた。サッカーW杯は、サッカーの世界一を争う大会であったが、国境を越えた人間ドラマでもあった。かつて、大相撲の朝青龍が勝ったときの、誇らしげに相手を見下すような態度に辟易していた日本人に、その姿はまぶしかった。そして、駒野は前を向いて帰ってきた。

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